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宮崎地方裁判所延岡支部 昭和60年(ワ)37号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金二三四万〇一四六円及び内金二〇九万円に対する昭和六〇年六月五日から完済まで年一四・七五%の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、井上哲子に対し、次のとおり金員を貸付けた(以下、右貸付金債権を「本件貸金債権」という。)。

(一) 貸付年月日 昭和四八年六月一二日

(二) 貸付金額 金四〇〇万円

(三) 元金弁済方法 昭和五一年から昭和五八年まで毎月五月三一日に金五〇万円ずつ分割償還

(四) 利息の割合 年九・七五%(但し、昭和五三年七月一日から年一〇・五%に利率変更)

(五) 利息の支払期 毎月月末にその日までの利息を支払う。

(六) 損害金の割合 年一八・二五%

(七) 借主が原告に対する債務を一つでも期限に弁済しなかつたときには、原告の請求によつて期限の利益を失い直ちに全額弁済すること

2  被告は、右同日、右債務につき原告との間に連帯保証契約をした。

3  井上哲子は、昭和四八年九月二五日に元金一四一万円、昭和五〇年五月一日に元金五〇万円、昭和四八年七月三一日から昭和五六年五月八日までの間に利息合計金一三七万二四八三円の利息を支払つた。

4  原告は、井上哲子及び被告に対し、昭和五四年一一月二九日到達の内容証明郵便をもつて同年一二月九日までに延滞金を支払うよう催告したが、支払わないので、同日期限の利益を喪失した。

5  原告は、昭和六〇年六月四日、本件貸金債権及び後記(二)、(三)記載の各貸金債権を請求債権とする宮崎地方裁判所延岡支部昭和五六年(ケ)第七号競売事件(債務者兼所有者井上哲子及び井上敏之)につき配当金七六〇万円(以下、「本件配当金」という。)を受領し、これを次のとおり弁済充当した。

(一) 競売手続費用 金三〇万三八二八円

(二) 原告の井上哲子に対する昭和四八年七月三一日付元金七〇〇万円の貸金債権の残元金三〇〇万円並びに未払利息金八七万五〇一七円(昭和五四年一二月九日現在)及び右残元金に対する昭和五四年一二月一〇日から昭和六〇年六月四日まで年一四・七五%の割合による遅延損害金二四二万九五〇六円から金一三二万六四三六円を減免した残余金一一〇万三〇七〇円に充当。右充当合計額金四九七万八〇八七円

(三) 原告の井上敏之に対する昭和四八年一一月一三日付元金四八〇万円の貸金債権の残元金五〇万円並びに未払利息金六万八八一九円(昭和五四年一二月九日現在)及び右残元金に対する昭和五四年一二月一〇日から昭和六〇年六月四日まで年一四・七五%の割合による遅延損害金四〇万四九一七円から金二〇万二一八二円を減免した残余金二〇万二七三五円に充当。右充当合計額金七七万一五五四円

(四) 本件配当金から右(一)ないし(三)記載の合計金額を差し引いた残額金一五四万六五三一円を本件貸金債権の昭和六〇年六月四日時点の未払利息金一〇万四一二一円及び年一四・七五%の割合による遅延損害金一六九万二五五六円の一部に充当した。その結果、本件貸金債権の右時点の残元金は金二〇九万円、遅延損害金は金二五万〇一四六円となる。

6  よつて、原告は被告に対し、本件貸金債権残元金二〇九万円と前記5の遅延損害金二五万〇一四六円の合計額金二三四万〇一四六円及び右残元金に対する昭和六〇年六月五日から完済まで約定利率を下回る年一四・七五%の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  被告は、当初、請求原因2の事実を認めると述べたが、のちに、右自白を撤回し、右事実を否認すると述べた。

原告は、右自白の撤回に異議を述べた。

3  同4の事実は認める。

4  同5のうち、原告が前記競売事件につき昭和六〇年六月四日本件配当金を受領したことは認めるが、充当方法は争う。

三  被告の主張

本件貸金債務は、本件配当金により支払い済みである。

即ち、前記競売事件の請求債権は、本件貸金債権及び請求原因5(二)、(三)記載の各貸金債権であり、右各債権についてはいずれも昭和五四年一二月九日期限の利益が喪失されたところ、本件配当金は、民法四八九条により、貸付の順番に従い、まず本件貸金債権につき弁済充当されるべきものであつたからである。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張のうち、本件配当金がまず本件貸金債権につき弁済充当されるべきであつた旨の主張は争う。

五  被告の主張に対する原告の反論

本件貸金債権並びに請求原因5(二)、(三)記載の各債権については、「弁済が債務全額を消滅させるに足りないときは、原告の適当と認める順序方法で充当することができる。」旨の特約があり、原告は、右特約に基づき、本件配当金を請求原因5記載のとおり弁済充当した。

六  原告の反論に対する被告の認否

原告の反論は争う。

第三  証拠(省略)

理由

一1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  被告は、当初、請求原因2の事実を認めると述べ、のちに右自白を撤回し、原告はこれに異議を述べたところ、自白の撤回は、自白が真実に反し、かつ、錯誤に基づきなされたときに限り許されるから、右自白の撤回の許否につき検討するに、証人山本照弘の証言及び被告本人の供述により成立を認める甲第一号証(なお、同号証の連帯保証人欄の被告名脇の被告の印影が被告の印章によるものであることは、当事者間に争いがない。)並びに被告本人の供述によれば、請求原因2の事実が認められ、右認定を動かすべき証拠はないから、前記被告のなした自白が真実に反していたとはいえず、よつて被告の自白の撤回は許されない。従つて、請求原因2の事実は、当事者間に争いがない事実として扱うこととする。

3  請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

二  請求原因5、被告の主張及び被告の主張に対する原告の反論について

前記甲第一号証、証人山本照弘の証言及び弁論の全趣旨によると、当庁昭和五六年(ケ)第七号競売事件の請求債権が、本件貸金債権及び請求原因5(二)、(三)記載の各貸金債権であり、これらには、すべて、「弁済が債務全額を消滅させるに足りないときは、原告の適当と認める順序方法で充当することができる。」旨の特約が付されていたところ、原告は、昭和六〇年六月四日、右競売事件につき本件配当金を受領し、右特約に基づき、これを請求原因5記載のとおり弁済充当することにしたことが認められる。

被告は、本件配当金のうち、請求原因5(一)記載の競売手続費用を除く部分は、民法四八九条により、貸付の順番に従い、まず本件貸金債権に弁済充当すべきであると主張するが、民法四八九条は、債権発生の順序に従い弁済充当すべき旨を規定してはいないうえ、そもそも、本件貸金債権及び請求原因5(二)、(三)記載の各貸金債権については、前記認定の特約があり、原告が右特約に基づき弁済充当を行うときは、民法四八九条の適用は排除されるから、被告の主張はいずれにしても採用できないというべきである。

三  よつて、原告の、被告に対し、本件残元金二〇九万円及び昭和六〇年六月四日現在の約定利率を下回る年一四・七五%による未払遅延損害金二五万〇一四六円の合計金二三四万〇一四六円並びに右残元金に対する昭和六〇年六月五日から完済まで約定利率を下回る年一四・七五%の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

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